【インタビュー】“面白がる”が未来を拓く――ICT活用を前に進める先生のためのヒント
2025年6月3日(火)に発売された、教育現場のリアルな活用アイデアが満載の書籍『忙しすぎる先生のための 校務×クラウド 〜現場の先生20名が実践する、校務がはかどるアイデア75事例〜』。
今回、本書の監修をしてくださった信州大学 学術研究院 教育学系・准教授の佐藤和紀先生にインタビューをさせていただきました!
まだ“パソコン=大人が仕事で使うもの”という認識が強かった時代に、小学校の教室で1人1台の端末を導入し、さらには(もちろん許可を得た状態で)ドローンまで飛ばしていたという佐藤先生。本記事では、佐藤先生の原体験から、小学校現場での先進的なICT活用、そして大学へと至る歩みを紐解きながら、ICT活用を一歩前に進めるためのヒントを探っていきます。
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https://master-education.jp/column/reserve_of_koumu_cloud/
松本サリン事件から芽生えた「情報」に対する視点
現在、小学校の教育方法・情報教育・ICT活用授業を教育工学の視点から研究されている佐藤先生。その原体験は中学生時代に遡ります。
「情報が誤って伝わる恐ろしさ」を肌で感じたことが、佐藤先生の原体験。
中学生時代に起きた松本サリン事件。ある人物が犯人扱いされたにもかかわらず、実際は誤報であったことに衝撃を受けたそうです。
「当時、犯人扱いされてしまった方の友人であった先生が『彼はそんなことをしない』と話していたにもかかわらず、テレビでは犯人だと報じられていました。この時、”間違った情報が流れる怖さ”を初めて体験しました。」
さらに高校卒業後、20歳の頃に出会った書籍『メディア・リテラシー: 世界の現場から』(岩波新書)が、過去の体験とリンク。“自分が中学生時代に体験したこと、感じたことはこれだったのか”と納得したのです。その頃から「情報を批判的に読み解く力」の重要性が、佐藤先生の中に芽生えていったそうです。
情報教育への情熱は「できないこと」へのストレスから始まった
小学校の教員時代から今日に至るまで続いている情報教育への強い情熱。その背景には、先生が抱えてきた「できないこと」へのストレスや悔しさがあったと語ります。
「そもそも教科って,もう既にやれるように設定されている。教科書もあるし、教材も探せば大体ある。でも情報教育は工夫しないとできない。情報活用能力のことはあまり理解されていない。
――社会では重要な力なのに『それって不公平だよな』ってずっと考えてきたんです。」
その不公平感は、やりたいことが周囲に十分理解されないことへのもどかしさや、時にその思いが伝わらないことへの歯がゆさを伴うものでした。
だからこそ佐藤先生は、「何としても実現させたい」という思いを強くもち続け、情報教育やICTの活用について環境がまだ整っていなかった当時から、自ら行動を起こしてきました。その原動力こそ、「やれないことをどうにかしてやれるようにする」という熱量だったと言います。
「小学校教員になったばかりの頃は職員室にLANケーブルが通っていなくて、200mのLANケーブルを公費で購入し、同僚と一緒にネットワークにつなげていました。情報教育が教科として存在しない中で、どうにかして学校にICTを取り入れたいという思いが強かったんです。でも先生たちには理解してもらえない。だからまずは職員室の情報化からだと思いました。」
「1人1台端末」を先取り―― iPadとクラウドを駆使した授業
小学校の教員時代、佐藤先生は「できないこと」を「できること」に変えるため、様々な試みをされてきたそうです。
平成22年度~25年度に実施された総務省の「フューチャースクール推進事業」に応募はしたものの、実践を予定していたチームが落選。その悔しさから「自分のクラスだけでもやってみよう」と奮起し、まだ世の中でもスマートフォンやタブレットが今ほど普及していない時代に、研究者の先生と共同で子どもたちへの「iPad・1人1台」の環境を見事実現させました。
「最初はグループに1台を支援していただき、その後、クラス1人1台、学年1人1台、全学級に各10台と拡大していきました。沢山の方がご協力をしてくださいました。」
1人1台のiPadを、情報の収集、情報の整理や分析、まとめや表現まで、あらゆる活動に活用していたそうです。
「当時はクラウド環境がなかったので、EvernoteのIDをみんなで共有し仮想クラウド環境を作ったり、学校のウェブサイト更新もTwitterのIDを教職員で共有して行ったりと、今のような整備されたクラウド環境に近い状態を何とかして実現しようと工夫をしていましたね。今ではできないこと、やってはいけないことたくさんあるとは思うのですが(笑)」
このような「攻めのICT活用」は、時には指摘や指導を受けることもあったと苦笑されていました。それでも、先生は「やれることを追求する」という姿勢を大切にし、来るICT活用の時代を先取りしていたのです。
「面白がる」ことが変革の鍵
佐藤先生は教員時代、学校の敷地内でドローンを飛ばしたり、カメラメーカーから一眼レフユニットを30台提供してもらい遠隔操作の授業をしたりするなど、当時としてはかなり先進的なICT実践にも挑戦されていたそうです。さらに、全校の端末300台分のアップデートをすべて受け持っていたことも!
「今の学校現場では、『面白がれていない』先生が多いように感じます。」と佐藤先生。
一見すると大変に思えるようなことでも、「面白そう!」「やってみたい!」という知的好奇心が刺激されると、主体的に工夫を凝らし、楽しみながら取り組めるもの。そこに、新しい学びを追求する佐藤先生の熱意がうかがえます。
1人2台端末――さらなる挑戦も
今でこそ、GIGAスクール構想によって全国の小中学校に1人1台端末が導入されましたが、佐藤先生の実践はそこに留まりません。たとえば、パソコンとiPadの「1人2台端末」の実践をしていたことも。
「それぞれのOS・デバイスによって得意な操作が違いますよね。表現方法が多様になるし、デバイスによる制約も学べる。
――もし自分がいま小学校現場に戻ったとしたら、生成AIの活用はもちろんのこと、学習環境や労働環境は一般社会と同等、それ以上のレベルで授業をしたり仕事をしたりしてみたいですね。」
今でも、様々な地域の学校と共同で、「1人2台端末」や「デュアルディスプレイの活用」などに取り組んでいるそうです。
「最先端」から「普及」へ
小学校の教員を11年勤めた後、佐藤先生は大学教員に転身します。大学の公募に試しに応募してみたのがきっかけ。最終面接で不採用になった悔しさから「本格的に大学の先生を目指そう」と決意したそうです。
大学での活動を通じて、佐藤先生は「情報教育」の先端を模索するだけでなく、多くの先生方が日々直面する「ICTの導入・活用をどう広げるか」という普及・定着面に力を注ぐようになりました。これまで自身が試行錯誤してきたノウハウを活かして、各自治体からの研修依頼、民間企業との共同プロジェクトなどに取り組まれています。
“巻き込み力”がICT教育を加速させる
ICTを活用した教育を進めるうえで重要なのは、技術力だけではありません。「周りを巻き込むコミュニケーション力」や「人柄」の大切さも非常に重要なポイントです。
ICTの活用を周囲に押し付けるのではなく、協力者を募ったり、少しずつ共感を広げていく姿勢が、校内全体でのICT活用の促進へとつながります。
佐藤先生の教員時代の先進的なICT活用のエピソードも、「一緒に面白がってくれる人を探す努力」を通じて取り組まれてきたそうです。
「地味」な挑戦が未来を拓く
佐藤先生は、本書が「地味」な本だと語ります。しかし、その「地味」さこそが、多くの先生にとって実践しやすい、再現性の高い内容であることの表れでもあります。
「最先端の技術や事例は一部の人は使いますがなかなか残っていかないし続かない。かつての自分も先端的な方法も試してきましたが、結果的に受け入れていただけたのは、いわゆる地味なものが多く使われ、残っていき、少しずつ人に拡散して全体的に進んでいく。人も環境も考え方も急には変わりません。そうしたプロセスこそ本質なのかなとも考えています。もちろん、先のことを試しているからこそ、次にくるイノベーションにも気づけるのだと思っています。」と佐藤先生。
そして、『忙しすぎる先生のための校務×クラウド』は、まさに「校務DXに取り組みたい」と思っている先生にとって強力な味方となる一冊。
その学校では前例のないことでも、『この本に書いてるから』『実際に取り組んでいる学校があるから』と、先駆者をその場に召喚するかのように、本書に事例を提供してくださった先生方全員に背中を押してもらえるツールになります。
最後に
インタビューを通して、佐藤先生のICT活用への情熱と、教育現場をより豊かにしたいという強い使命感が伝わってきました。
『忙しすぎる先生のための校務×クラウド』が、多忙な先生方がICT活用を通じて、より豊かな教育活動を実現するための一助となれば幸いです。この一冊が、皆様の「できない」を「できる」に変えるきっかけとなることを願っています。
書籍情報
- 書名:忙しすぎる先生のための 校務×クラウド 〜現場の先生20名が実践する、校務がはかどるアイデア75事例〜
- 著者:株式会社ストリートスマート
- 出版社:株式会社インプレス
- 定価:本体1,800円+税
- 発売日:2025年6月3日(火)
- ページ数:144ページ
- サイズ:B5変形判
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https://www.amazon.co.jp/dp/4295021628
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https://books.rakuten.co.jp/rb/18191008
ICT教育推進や校務DXに関するご相談はストリートスマートへ
株式会社ストリートスマートは、教育分野と働き方の変革分野の2つのスペシャライゼーション認定を持つ Google Cloud パートナー企業です。
自治体や教育現場の皆さまが効率的かつ負担なくICT教育を推進できるよう、学びのDXから先生方の働き方改革につながる校務DXまで、ご状況・ご要望に合わせた最適な支援をご提案いたします。ICT支援員、各種研修、先生のための総合プラットフォーム「master study」など、ICTの導入から活用推進まで、さまざまなアプローチで皆さまに寄り添った支援を行っております。
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