【わかりやすく解説】教育DXの実現に向けた定量的なKPIに見る、これからの教育現場の姿とは

文部科学省は昨年末、教育DXに向けた定量的なKPI(重要達成度指標)を公開しました。今回の記事では、開示された指標や計画について具体例を交えながら解説し、行政が目指す教育の姿について改めて確認していきます。

教育改革に向けた定量的なKPIが公表

文部科学省は「子供たちと教師の力を最大限に引き出すためのデジタルを活用した教育の充実」と題した資料を公開しました。注目すべきは、その中にICT環境を活用した教育改革の推進に向けた定量的かつ具体的なKPIが盛り込まれていたということです。

これまでにも「GIGAスクール構想」が描く未来については数多くの資料が公表されてきましたが、ここまで明確に「いつまでに」「何をするか」についての具体的な言及がされたのははじめてのことです。

今回取り上げる資料では、「アウトカム」という形で教育DXが達成すべき目標を明示した上で、そのために必要な前準備としての「インプット」を定義しています。そして「インプット」「アウトカム」それぞれに対して、具体的に「いつまでに」「何をどれだけ達成しているべきか」という定量的なKPIが設定されました。ICT環境の整備に留まらず、それらを活用した「児童・生徒の学びの充実」や「教職員の働き方改革」に向けて、行政が本気で取り組んでいく姿勢がみられます。では、早速その中身を具体例とあわせて解説していきます。

「ハード×ソフト」両面においてICTを浸透させる

まずは、教育DXの目標達成に向けた前準備としての「インプット」について見ていきましょう。インプットはハード・ソフトの2項目に分類されており、両項目のKPIを達成することを通じて「円滑なICT活用の前提条件の整備」や「(デジタル技術に対する)苦手意識の軽減・余剰時間の創出」などをに繋げることを目指します。

ハード面における課題とKPIの紹介

ハード面のインプットとしては、「1人1台端末」と「ネットワークの改善」といった項目が設定されています。

「1人1台端末」については、令和4年末時点における児童生徒向けの端末普及率は99.9%とほぼ目標が達成されている一方で、指導者用端末を整備している自治体はまだ全体の64.6%に留まっています。またデジタルデバイスが故障した際に、予備機が万全に整備されていないことで「端末活用」に切れ目が起きてしまっている例も見受けられます。そこで、KPIとしては「2024年度内に指導者用のデバイスの普及率を100%にすること」、及び「2028年度内に予備機の普及率を100%にすること」などを掲げています。

 

「ネットワークの改善」については、ネットワーク速度が不十分であったり、セキュリティポリシーが未整備であることが取り上げられています。資料によると、必要なネットワーク速度を確保している学校はまだ実は35.7%しかなく、クラウド対応の教育情報セキュリティポリシー策定済み自治体も49.1%にとどまります。どちらもDXを推し進める上での大前提の基盤となるもので、2025年度内にそれぞれ100%まで高めることをKPIとして定めています。

ソフト面における課題とKPIの紹介

ソフト面のインプットには「GIGA×校務DX」と「端末の積極的活用」の2つの項目が設定されています。

 

まず「GIGA×校務DX」は校務におけるクラウドやAI活用の未浸透、紙を用いた校務作業が残っていることなどが現状として挙げられています。昨年12月に文部科学省が公表した「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト自己点検結果」によれば、生成AIを校務に役立てている小中学校は2割程度で、校務を遂行する上で紙による提出物を使用している小中学校は9割以上にのぼりました。

こうした背景を踏まえ、政府は「2025年度内に校務で生成AIを活用する学校の比率を50%」まで高め、「FAXによるやりとりや押印を必要とする手続き、不合理な手入力作業を全ての学校において原則廃止」することをKPIとして掲げています。ペーパーレスや生成AIの活用などはビジネスシーンで近年活発に議論されておりますが、教育においても政府が舵をとって推進していく姿勢が改めて鮮明になりました。

 

「端末の積極的活用」については、端末の活用率に格差が生まれていることや、教職員のICT活用指導力に差がみられることが現状として挙げられています。今回発表された資料の中では、「ICT研修を受講する教員の割合を2024年度内に100%にする」ことや「授業にICTを活用して指導する能力を有する教員の割合を2025年度内に100%にする」といった項目が挙げられています。

教職員のICTを活用した指導力向上に積極的に取り組んでいる自治体のモデルケースとしては、横浜市の例が挙げられます。同市は「教職員のICT活用指導力向上のための研修ガイド」を公開。文科省が定義する4つの大項目からなる「ICT活用指導力」にオリジナルの項目を加えた独自のチェックリストを作成し、各教員が苦手な項目を効率的に学べるようにe-Learningを中心とした研修講座の案内まで発信しています。

ICT利活用による「学びの充実」と「働き方改革」を目指す

最後に、上述したインプットを経て実現したい「アウトカム」について見ていきましょう。
具体的には、「①個別最適・協働的な学びの充実」「②情報活用能力の向上」「③学びの保障」「④働き方改革への寄与」の4項目が挙げられています。①〜③では主に教育DXを通して「児童・生徒に向けてより高品質でユニバーサルな教育」を提供すること、④では校務DXやITリテラシー向上を通して「教職員側の負担軽減・生産性向上」を大きく目指していると考えられます。それぞれの項目において特筆すべきKPIをピックアップしていきます。

アウトカム項目における具体的なKPIの紹介

「個別最適・協働的な学びの充実」におけるKPIとしては、調べる場面や教職員とやりとりする場面といった様々なシーンごとに、情報端末を週3回以上活用する学校の比率を向上させることが掲げられています。例えば、「理解度等に合わせて課題に取り組む場面」での同比率は2023年度末に小学校で44.9%、中学校で36.1%となっていますが、2026年度にはそれぞれ80%に伸ばすことをKPIとしています。あわせて、教育データの利活用に関する記事でも紹介したように、今後児童生徒ごとに学習履歴や成績に関するデータが蓄積されていき、各教科の理解度が把握できるようになることで、個別最適な学習がしやすい環境になってくることが予想されます。

 

「情報活用能力の向上」におけるKPIでは、「キーボードによる日本語入力スキルの向上」が掲げられており、2026年度内には1分間に入力できる文字数として小学生は40字、中学生は60字を目標としています。2023年末では小学生で15.8字、中学生で23.0字でした。教育DXの流れの中で、調べ学習や資料作成に端末を活用する機会は増えていくので、児童生徒一人ひとりがキーボード入力を自在に使いこなす能力を身につけることが重要となっています。

 

「学びの保障」におけるKPIには、不登校児童生徒や障害のある児童生徒、外国人児童生徒などにICTを活用した支援を提供できているかどうかを測る指標が並べられています。例えば、「希望する不登校児童生徒へ端末を活用した授業への参加・視聴の機会を提供している学校の割合」「外国人児童生徒に対する学習活動等の支援に端末を活用している学校の割合」「特別な支援を要する児童生徒の実態等に応じて端末を活用した支援を実施している学校の割合」などがあり、どれも2026年度には100%を達成することを掲げています。文科省が公表している教育のデジタル化のミッション「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」と照らしても一貫性のあるKPIといえるでしょう。

 

「働き方改革への寄与」の項目では、「教職員の働き方改革にも資するロケーションフリーでの校務処理を行っている自治体の割合」について2029年内に100%を目指すといった特徴的なKPIもあります。従来、先生方が校務を行う際、職員室に固定された校務用端末以外からのアクセスは制限されていました。結果、感染症の拡大や災害などにより出勤が難しい場合に校務を継続することが困難だったり、軽微な校務処理のために長期休業中でも出勤する必要があったりと、先生方は心身ともに負担を抱えていました。その土台としてクラウドサービスの導入やセキュリティポリシーの整備などは必須ですが、場所の制約なしに校務処理ができる環境を整えることが先生方の働き方改革に大きく寄与するのです。

 

 

今回の記事では、文科省が公開した教育DXの詳細なKPIについて解説いたしました。「1人1台端末」「ネットワークの改善」といったインプットを通して、「個別最適・協働的な学びの充実」「働き方改革」といったアウトカムを実現していこうする政府の方針を改めて確認できました。中には生成AIの活用比率を50%に引き上げたり、紙の校務を完全撤廃したりするなど、学びの在り方や働き方の変化に向けて大きな一歩を踏み出そうとしていることが分かります。開示された定量目標と現実を照らし合わせ、進捗についてもきちんと確認していくことが欠かせません。

 

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